2021/06/02

スペインのゴミ箱に捨てられた手紙と第二の人生

結婚式のとき、ほんとはうちの父からも一言、みんなの前で話してほしかった。
新郎側の父親が挨拶する家庭が多いかもしれないけれど、なんとなく、うちの父(新婦側だけど)にも一言、話してほしかった。けれど父は「俺はいいよ」と断って、話さなかった。
目立つことが好きでないのだ。
そういうこともあってか、結婚式の翌日に、新婚旅行でスペインへ向かうわたしに、父がメールをくれた。母の携帯を通じて。

メールには、わたしが18のときに進学で上京した日のことが書いてあった。この日は両親も一緒に新潟から付いてきてくれた。小雨の降る、風の強い日だった。新宿から乗った小田急線は、なぜか各駅停車で(到着駅まで1時間以上かかるのに…)駅に電車が止まるたび、開くドアから桜の花びらが風にのって入ってきた。父は思えばこのときから、わたしの第二の人生が始まったんだと思ったそうな。そう、夫とは、このとき進学した大学の、学生寮で出会った。
メールには最後、「この手紙はスペインのゴミ箱にでも捨ててきてください。」とあった。

それから何年か経って、あれ、あのメールはどうしたっけ、と思い出して、随分探したけれど、メールは見つからなかった。いいこと書いてあったのに、な。たぶん。もう桜のくだりと、ゴミ箱に捨ててくださいの一文しか覚えてなくて(しかもそれすら記憶が曖昧)、他はもうすっかり忘れてしまったけど。忘れたからなんだということもないけれど、ほんとにゴミ箱に捨ててしまうなんて…。

そして今年の3月、わたしと夫が出会ったその学生寮は閉寮になったそうな。なんだかひと時代終わったような気もするし、まだ延長戦のような気もする。第二の人生とやらが始まってから、もうすぐ20年の月日を迎える。







Tsurukawa Tokyo Japan 2021

natsukinoki